SSSS.DYNAZENON 第六話視聴メモ

今までのヒーローものの王道展開から一転、通奏低音として流れていた各人の問題が再び現前する第六話。足並みの揃わないダイナゼノン陣営。対照的に、結束を深める怪獣優生思想。

今回は物語の鍵が幾つか与えられました。今回も私の気になる点を中心に拙いメモを。

 

第六話:[この切なさって、なに?] 

 

夢芽の「憂鬱」*1

OBから、「香乃は明るい性格で可愛がられていたが、男絡みで周囲から不満を抱かれるようになり自殺に繋がったのではないか」という旨の話を聞き、瓜田のとは別の非公開動画があることも知る。帰路、「お姉ちゃんのこと何も知らなかったんだな」と夢芽。

 ガウマに話した時は断固たる決意、という感じだったが……。件の動画を見て一変。

 

動画の内容

定期演奏会前のドッキリを収めた動画。内容は以下のようなもの。

 音楽室に香乃が入り、女子部員(金江?)から、荷物から抜かれた何かを探すよう促される。知恵の輪が無いことに気づき、心なしか必死になる香乃。雑コラのように現れる知恵の輪のシルエット。促されて、身を乗り出して開いた窓から下を見る香乃。そして、階下の地面に落ちている知恵の輪を拾いに行く。「ドッキリ大成功」と金江が言い、集合写真。笑う香乃。

 

→どこをどう見ても今時の悪戯な高校生の動画だが…(ノリは小学生のそれよなあ)。以下、気になる点を挙げる。

・必死で探す様子から、香乃にとってもアンクの知恵の輪は重要なアイテム(或いは男絡みのもの?)

・香乃の笑顔の意味は?(自分の感情を隠すために敢えて写真撮影の時に笑っていたとも取れる。少なくともこの時は楽しんではなさそうだが)

・物を隠すという行為の意味は?(次項)

 

物を隠すことの意味/動画を非公開にしたことの意味

物を探すように促すには、その物自体が持ち主にとって重要である必要がある。例えばティッシュや鉛筆のようにありふれたものを隠してもイタズラとしては不十分だろう。少なくとも、香乃にとって知恵の輪が重要なアイテムであることを周囲の部員は理解していたことになる。

 階下で知恵の輪を見つけた時、それは地べたに置かれていた。「窓から投げ捨ててはいない」とは言いつつも、他者の所有物の扱いがぞんざいすぎやしないか。度を越しているような気もする。

 香乃の恋愛を揶揄うような意味もあったのかもしれないが、香乃を孤独に追い込むには十分な意味を持ったのではないか。

 

最後にチャンネル登録(?)云々の表示も出ていたような気がするので、動画自体は内輪のものではなくて、定期演奏会の宣伝か何かで外に公開する目的があったはず。香乃の死後、動画を非公開にしたのは、香乃の死で演奏会ができなくなったというのも一つにはあろうが、部員たちがいじめに近い、際どいイタズラをしていたことに自覚的だったのではないか。動画の非公開化には責任逃れの意味があったのでは?

 まあ、はっきりといじめと言えるかはやっぱり怪しいよなあ……。

動画を見てからの夢芽

姉のことが余計にわからなくなった模様。最初にガウマが心配した通りに、背負い込むものが増えてしまった。自分が苦しんでいるのに蓬がのうのうとしている様が許せないのか、姉と同じ「わからなさ」が重なるのか、蓬の女友達の振る舞いから疎外感を感じる部分もあってか、蓬に少しばかり嫌悪感を抱くように。

 机と窓とそこから見える青空、レンズを通して見たような視界。この時の描写は前作『SSSS.GRIDMAN』のOPの最後のシーンと構図が合致する。夢芽の「憂鬱」を象徴するシーン。

 体育の前の外廊下、蓬が夢芽に話しかける。OBとの面会の帰路とは打って変わって、夢芽は蓬を拒絶。心配してくれることをありがたく思うのではなく、「蓬君には関係ない」という鋭い言葉。蓬が土足で踏み込んでいる感じも否めないが。

 

ちせの「憂鬱」

香乃についての話を聞き、「いじめの証拠は出てこない。いじめだから」という旨の発言。それって、実際の絶望を味わったことのある人間からしか出てこない言葉なのでは……?

ちせが学校に行かないのは、いじめが一因かもしれない。

所持するバロック(?)がさらに歪に変形してきているが、怪獣の芽生えなのだろうか?

 

蓬の「憂鬱」

第二回のボイスドラマで明かされたのは、上条と母親との関係に気を遣う蓬の姿だったが、それは変わらない模様。しかしながら関係を鬱陶しく思っている節もあるような。

 夢芽を気にかけているが、本人から疎まれるようになり、傷心気味。

 

暦の「憂鬱」

今回も稲本さんと飲みに行く暦。2本の傘の柄の表現が暦の心情を象徴(最初のハート型→タチバナが来てから崩れる)。この辺りの心情はボイスドラマ第6.6回を参照するとわかりやすい。ムジナとの酒の席でも愚痴を言うが、結婚相手を紹介されたこと、親しいようでそうではないという疎外感、話が噛み合わないという居心地の悪さ…。

 

稲本さんとの過去

稲本さんが見せたのは男子トイレにある、何かしらの入ったバッグ。それを見て暦は飛び出す。 

 

 ムジナ同様、暦はやりたいことがはっきりしない気質であることがはっきり描かれた。稲本さんとの過去が強烈に暦を縛り付けるのに、暦はなぜ稲本さんとの関わりを続けるのか……。

 

ダイナゼノンの世界線を説明する鍵

そんなこんなで足並みの揃わない四人はうまく連携が取れず、ムジナ、オニジャ操る怪獣に苦戦。今期初めての敗北の危機が訪れる。そんな中、上空から赤い閃光を放ってグリッドナイトが登場。怪獣に対峙する。

 ここにおいて、『SSSS.DYNAZENON』の世界がどのようなものかおおよそ明らかになったと言えよう。グリッドナイトは、前作の敵役(アカネのパシリ)であるアンチがグリッドマンの力をコピーしてヒーローに転身した姿(但し、サムライキャリバーによるなら「本物」)。彼はコンピュータワールドの怪獣であったから、現実世界には存在し得ない。したがって、今作の世界線が(任意の)コンピュータワールドであることはほぼ確定したと言えるのではなかろうか。

 では、具体的にはどのような世界なのか。以下、簡単に見解を述べる。

 

登場の仕方と意味

前作では「太陽からオーブが落下してきて青空で弾ける」表現がグリッドマンが外部からやってきた存在であることを象徴していたように思う(うろ覚えェ…)。この表現に照らして考えるならば、「赤い閃光を出して太陽から落下してきた」グリッドナイトも外部の世界の存在に当たることになる。前作と符合するロケーションが、違う地名(ツツジ台駅→フジヨキ台駅)や違うカラーリング(高校の校舎自体は恐らく構造も同じで、モデルは同じ。但し壁面の素材とその色が違う)*2で用いられていることもこの点を理解するのに役立つだろう。

 

空/宇宙の描き方から見る世界

前作とは異なり、今作には電子回路の天井が存在せず、第三話より、宇宙空間が存在することが確認されている。しかしながら、グリッドナイトの存在に見るように今作もまたコンピュータワールドの世界と見られる。前作の最終話において、ツツジ台から世界が新たに広がっていく描写があったが、それと同じく「(アカネのような)神、創造主を必要としない世界」であると考えるのが、今のところは合理的だろう(次項でも触れる)。

 

誰のための世界か

 前作のツツジ台世界は、アカネが自分自身の鬱憤を晴らすために作った「理想郷」であった。従って、彼女の気に入らない存在は、怪獣による破壊で消すことができたし、彼女の采配次第で野外行事のための地域など、必要なものを生み出すこともできた。怪獣を使えば損壊した街並みの修復や、人々の記憶消去もでき、(グリッドマンが来るまでは)アカネの望む「日常」を繰り返すことができた(「退屈」ではあったが)。つまるところ、アカネが神になれる世界であった。

 対して、今回は誰かが格別の受益者になる構造はしていない。怪獣が暴れ回ることで損壊した街並みは、自然修復することはない。更にシズムによるなら、怪獣は様々の軛から人々を解き放つ存在であり、それを育てるのは人間*3の感情。「憂鬱」な感情に支配された人間がそう望むことで怪獣を育て、社会を破壊させている、そういう構図が出来上がる。

 そこには、世界に干渉する他者を想定する必然性はない。仮にありうるとするなら、現実に酷似した世界に(人々の感情を食って成長する)「怪獣」というファクターを打ち込んだら、どのような反応が生じるか、それを観察したがる奇妙な科学者ぐらいだろう。また、仮に創造主が破壊衝動の持ち主だとしても、その行動は合理性にかける。単に社会の破壊を望むならば、アカネがしたように最初から強力な怪獣を創造すればよいはずだ。

 

 受益者がおらず、世界への干渉者がいる必然性がない。この点や、前項の内容を鑑みるならば、今作は「神や創造主を必要としない世界」であり、ほぼ完全に自立したコンピュータワールドと考えるのが適切だろう。加えて、グリッドナイトは外部の存在として描かれている可能性が高いから、少なくともアカネやグリッドマンのいた世界ではないと言える。

 

残された大きな謎

・怪獣の育つ要因は分かったが、では怪獣はどこから生まれてくるのか?(バロック(歪な真珠)が関係?ダイナゼノンと怪獣の頻出の間の関係は?)

 

書き足りないが今回はここまで

*1:自分を取り巻く現実と少なからず向き合っている点で、空虚な現実逃避を続けたアカネとは違っており、(逃げることで生じる)「退屈」よりも(向き合うことで重荷を増す)「憂鬱」を当てるのがふさわしいと判断した。

*2:東京都立上井草高等学校。今作は実物に近いカラーリング

*3:世界がコンピュータワールドであることから、レプリコンポイドコンポイドであると推察され、厳密な人間ではないが、便宜的に人間と呼ぶ